【〼セッションIPA】増して益して縁起物!1300年の時を超え、時代と共に変化し続ける枡
日本の昔と今とこれからをクラフトビールを通して再発見する「JAPANESE BEER ODYSSEY」。日本文化を縦横無尽に醸す旅の先でどんなクラフトビールと出会うのか…ここJBO GUIDEでは、オトモニオリジナル銘柄のテーマとなった文化をより深く掘り下げてご紹介していきたいと思います。
檜の香りの枡で楽しむ、枡をテーマ醸造された〼セッションIPA
JAPANESE BEER ODYSSEY第6弾の銘柄は「〼セッションIPA」。日本の伝統工芸品である「枡」をテーマにしたクラフトビールです。
現在は日本酒を飲む器としてのイメージが強い枡ですが、酒器として定着したのはごく最近のこと。長い歴史の中で枡はどのような変化を遂げてきたのか、そしてこれからどこへ向かっていくのか……枡の昔と今を探っていきたいと思います。
1,000年の時を経て、計量器から酒器へ
枡が初めて使用されはじめたのは、約1300年程前。なんと飛鳥時代末期まで遡ると言われています。西暦701年に施行された「大宝律令」によって初めて「ものを量る」という概念が提唱され、計量のために枡が使用され始めたのです。
その後江戸時代末期に至るまで、枡はありとあらゆるものを量るツールとして使われ続けました。米などといった穀物、酒や醤油、芋や小魚……時代の影響によってその大きさを変えつつも、枡は長きに渡り人々の生活を支え続けたのです。
計量器としての枡が、その役割を変えていったのは昭和時代中頃から。
当時導入されつつあったメートル法への完全移行による影響でした。結果「一合」や「一升」といった単位を残しつつも、枡は計量の表舞台からはその姿を消すことになったのです。
そんな枡が新たに「酒器」としてその役割を大々的に得たのは、今から実はたった56年前の昭和41年のこと。法改正により枡を作るコストが安くなり、枡を様々な場面で使用しやすくなったことがきっかけでした。ここに目を付けたのが大手酒造メーカー。「日本酒を飲むのに適した酒器は、枡である」と大々的に打ち出し、それがテレビ等のメディアで取り上げられたことにより、人々の間に「枡=日本酒」というイメージが定着していったのです。
計量器から酒器へ。飛鳥時代末期から続く伝統道具の枡は1,000年以上の時を経て、新たな進化を遂げたのです。
願いを込めて神棚に。神聖で縁起物の枡
お酒を楽しむための器になった枡は、「縁起物」として結婚式や引き出物など祝いの席で多く用いられるようになりました。
枡が縁起物といわれる理由はいくつか考えられていますが、計量器として用いられていた時代、お金と同等であったお米を計る道具であったということが挙げられます。年貢制度のあった時代、人々にとって米が無事収穫できるか否かは、生死を分ける重要な問題。
自然災害や凶作などにならず、収穫したお米をきちんと枡で計って納められますように。この枡の中にお米がたくさん入りますように。
人々はそう願い、枡を神棚にあげて豊作を祈ったといいます。それ故、枡は神聖な器であり縁起物だと考えられるようになったのです。
また「枡(ます)」という言葉の響きが、「福が増す」「益々良くなる」などといった肯定的な響きをもつこと、木を組んで作ることで「気が合う」という意味をもつこと故に、一致団結するときや夫婦になる際などおめでたい席などで用いられるようになりました。
進化する枡!新たな「MASU」の可能性
さて計量器から縁起物・酒器へと変化を続けてきた枡ですが、いままたその可能性が切り開かれつつあります。新たな枡文化を仕掛けるのは「枡工房枡屋」。古くから続く枡生産の伝統技術を守りつつ、これまでの枡の概念を覆す岐阜県大垣市にある枡専門メーカーです。
量りや酒器としての枡にとらわれず、枡の新たな価値を発信し続ける。そんなユニークな彼らの取り組みについて、代表の大橋さんにお話をお伺いしました。
――枡工房枡屋では、どのような商品を展開しているのでしょうか?
大橋さん:弊社では伝統的な枡の他、様々なオリジナル商品を製作販売しております。料理を乗せる枡皿や枡コースター、枡の中にバスソルトが入った「Math salt(マスソルト)」や、枡を使ったインテリアライト、エコ加湿器や枡ピアスなどを作っております。
――これは!確かに枡の概念が覆りますね
大橋さん:ありがとうございます。他にも枡をコンセプトにした「masu cafe」というカフェをやっており、枡で飲むコーヒー「MASUPRESSO(マスプレッソ)」や丸ごとオーブンで焼いた、ヒノキ香るシフォンケーキ「MASUCHIFFON」など枡で楽しむお食事をご提供しております。
――本当に幅広く展開されているのですね!そもそもこのような商品を生み出そうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
大橋さん:わたしは29歳の時にサラリーマンを辞め、家業を継いだのですが、祝いのスタイルや飲酒のスタイルの変化によって、酒器としての枡の需要がどんどんと減っている時期でした。売り上げは全盛期だった頃の半分程度。「このままではまずい」と、枡でできることを模索し始めたのがすべての始まりです。
最初はとにかく試行錯誤の連続で、失敗を繰り返しながら枡の可能性を探る日々でした。
お豆腐の機械に被せる枡を作ったり、専用の装置もないのにご要望のあった8角形枡作りにチャレンジしたり……泣きながら納期前日に徹夜で仕上げたこともあります。正直最初はきつかったですが、こうやって頑張ってきたことの積み重ねが今の原点になっていると思います。
――大変な時期があって、今があるのですね!たくさんの枡商品を作っていらっしゃいますが、そこに共通で込めている想いなどはあるのでしょうか?
大橋さん:枡は、「空間に幸せな彩(いろどり)をあたえる」存在だと思ってます。なので枡によって人々が繋がれますように、そして皆が幸せになれますように、と願いを込めて作っています。
わたしたちのミッションは「枡を通じて幸せをお届けすること」。今は人が集まるのが難しい時期ですので、お家時間の癒しや楽しい時間を少しでもご提供できればと思っております。
枡の伝統やそこに込められた意味を大切にしつつ、現在の多様性に合わせ枡の楽しみ方を提案する。時代の流れによって役割を変えてきた枡は、いままた新たな転換期を迎えているのかもしれません。
JBO銘柄第7弾は枡で飲むクラフトビール「〼セッションIPA」
時代により少しずつ姿を変えつつも、ずっと変わらず縁起物として大切にされてきた枡。
そんな枡になぞらえ、今回のビールを考えました。何かと変化が多いこの季節、みなさんの福が増すよう、そしてこれからの新生活で気の合うよい出会いがあるようにとの願いを込めて「〼セッションIPA」を醸造しております。
定期便2022年4月14日の〼セッションIPAの初配送回では、今回話を聞かせてくれた、枡工房枡屋さんの一合枡も特別に無料で同梱させていただきます(オトモニのロゴ入りです!)
枡の木の香りや風味との相性を考え、枡に注いで飲むことで味わいが完成するように作られたこのビール。どうぞ春風と共に、ゆっくりと味わってみてください。
文 : 小林加苗
協力 : 枡工房桝屋