日本の昔と今とこれからをクラフトビールを通して再発見する「JAPANESE BEER ODYSSEY」。日本文化を縦横無尽に醸す旅の先でどんなクラフトビールと出会うのか…ここJBO GUIDEでは、オトモニオリジナル銘柄のテーマとなった文化をより深く掘り下げてご紹介していきたいと思います。
ホワイトデーの起源は老舗和菓子店が仕掛けたマシュマロデーだった!
一年で唯一の「お返しの日」、ホワイトデー誕生ストーリー
JAPANESE BEER ODYSSEY第五弾の銘柄、ラズベリーヴァイツェンのテーマは「ホワイトデー」。
1年365日のうち唯一の「お返しの日」であるホワイトデーは一体いつ、どのようにして生まれたのか。知っているようで実は知らない、ホワイトデーの歴史を紐解いていきたいと思います。
ホワイトデーが3月14日に決まったのは閑散期だったから!?
ホワイトデーの起源は遡ること46年前。福岡県にある「石村萬盛堂」によるマシュマロデーが発端だったと言われています。石村萬盛堂は明治38年創業の和菓子店。100年以上続く老舗和菓子店がなぜマシュマロを販売するようになったのか、そしてどうしてそれがホワイトデーのはじまりとなったのか?
気になるあれこれを石村萬盛堂 企画マーケティング室の夏田 正明さん(以下夏田さん)にお伺いしました。
――ホワイトデーの前身は、昭和53年にスタートした御社のマシュマロデーだったと聞きました。このマシュマロデーはどのようにして生まれたのでしょうか?
夏田さん:マシュマロデー誕生のきっかけは、当時の社長である石村僐悟がパラパラと見ていた雑誌の中に『男性からバレンタインデーのお返しがないのは不公平。ハンカチやキャンディー、せめてマシュマロでも…』という投稿を見つけたことでした。
バレンタインデー自体は古くから日本にありましたが、そのお返しとして女性に何かを贈るという文化はなかったんですね。なので男性から女性に対しマシュマロを贈る日を作ってはどうかと思いついたわけです。
――そうだったのですね!でも石村萬盛堂さんは和菓子が中心だと思うのですが、マシュマロデー発案前からマシュマロを作っていたのでしょうか?
夏田さん:石村萬盛堂では、創業当初より「鶴乃子」という和洋折衷のお菓子を作っております。鶴乃子は舶来品のマシュマロ技術を用いた、ふんわりとした生地で黄身餡を包んだもので、明治時代より愛される福岡銘菓。この鶴乃子をきっかけとし、新たなお菓子としてチョコレートマシュマロを考案しました。
そしてマシュマロデー開始時には、チョコレートマシュマロをはじめとし、様々なマシュマロを発売したんです。
――最初に考案されたのは、チョコレートマシュマロだったのですね!
夏田さん:そうです。ここには「バレンタインデーに君からもらったチョコレートを、僕のやさしさ(マシュマロ)で包んでお返しするよ」という想いが込められています。
――それでチョコレートマシュマロ…納得です。ではなぜマシュマロデーは3月14日だったのでしょうか?
夏田さん:その時期が一番の閑散期だからですね(笑)
マシュマロデーの候補日は、最初3案ありました。バレンタインデーを逆さまにした4月12日。バレンタインデーの1週間後の2月21日、そしてバレンタインデーの1か月後の3月14日です。いろいろと話し合ったり意見を聞いた結果、特にイベントもなく暇になるこの時期が一番いいだろうということで3月14日に決まりました。
――マシュマロデーの詳細はこうやって決まっていったのですね!昭和53年3月14日にマシュマロデーがスタートするわけですが、どのように世間に広めていったのでしょうか?
夏田さん:とにかく催事を行い、マシュマロデーの認知を広めていきました。新たな味も毎年出し、様々な打ち出しを行いました。
――チョコレートマシュマロ以外にどんなマシュマロを販売していたのですか?
夏田さん:大きなマシュマロや、ギモーヴマシュマロ、チョコレートをかけたマシュマロに生マシュマロなどですね。しかし数年間は売り上げの厳しい年が続きました。
夏田さん:大きな変化が訪れたのは、マシュマロデー開始から7~8年程経った頃。とある百貨店さんから、「マシュマロデーは1年のうちで唯一のお返しの日。この日の名前をホワイトデーに変え、もっと幅広くバレンタインのお返し文化にできないか」と問い合わせいただいたんです。
こうしてマシュマロデーはホワイトデーへと名前を変えました。その結果、お菓子業界、他食品業界、そして衣料品業界など様々な企業がホワイトデーに参入。3月14日前にはたくさんのホワイトデー広告が出回るようになり、「バレンタインのお返しをする日」が徐々にと定着していったのです。
――石村僐悟社長の思い付きが発端となり、結果としてひとつの文化が生まれた……すごいことですね。
夏田さん:マシュマロの美味しさを広めたい!と試行錯誤していたら、それが文化につながっていった、そう思っています。
賞味期限たったの30分!?進化し続けるマシュマロ
マシュマロデー誕生のきっかけとなり、今なお愛され続けている鶴乃子誕生から100年以上。様々な試行錯誤を繰り返してきた石村萬盛堂さんのマシュマロは、今なお進化し続けています。2021年7月に誕生した、最新のマシュマロはこちら。
その名も「つるのこのこ」。福岡本店でのみでしか食べることができない、超限定マシュマロです。お椀のようなカップに入っており、その食感はとにかくぷるっぷる!中にはバニラアイスとカスタードクリームが隠されており、上にはふるふると震える出来立てのマシュマロが乗っています。
つるのこのこは菓子職人が目の前で作ってくれるスタイルで、その賞味期限は、驚きの30分。「出来立てのマシュマロの美味しさを届けたい」そんな石村萬盛堂の想いがぎゅっと凝縮されたこだわりの逸品なのです。
「ありがとう」の気持ちを形に
「バレンタインに対するお返しの日を作りたい」「マシュマロの美味しさを広めたい」そんな和菓子店の思いから始まったホワイトデーは、今や誰もが知る年中行事となりました。
ここまでホワイトデーが定着した背景には「贈ったものに対し、お返しをする」という、日本特有の贈答文化があったからかもしれません。頂いたものへの感謝、そしてそこに日頃の感謝を込め贈り物を返す。ホワイトデーはそんな細やかな心配りが形になった日ともいえるでしょう。
JBO銘柄第5弾はラズベリーヴァイツェン
今回はそんなホワイトデーをイメージし、ラズベリーヴァイツェンを醸造しました。
コッテリとした小麦のビールにラズベリーとバニラを合わせ、お菓子のようなぜいたくな味わいに仕上げています。定期便ではホワイトデーの起源となった石村萬盛堂さんのマシュマロも一緒に同梱しているので、ぜひホワイトデー誕生のきっかけになったマシュマロを食べながら、ゆっくりデザートビールとして楽しんでみてくださいね。
文 : 小林加苗
協力 : 石村萬盛堂