日本の昔と今とこれからをクラフトビールを通して再発見する「JAPANESE BEER ODYSSEY」。日本文化を縦横無尽に醸す旅の先でどんなクラフトビールと出会うのか…ここJBO GUIDEでは、オトモニオリジナル銘柄のテーマとなった文化をより深く掘り下げてご紹介していきたいと思います。
【翠雨】雨と生きる。古来より続く、日本人の雨に対する感性
JAPANESE BEER ODYSSEY第9弾の銘柄は「翠雨(すいう)」。長雨が少しだけ楽しくなる「雨の日にだけ飲むクラフトビール」を造りました。
ビールの名前である「翠雨」とは、青葉をぬらして降る雨のこと。日ごとに緑が濃くなる若葉を濡らし、すがすがしい輝きを与えることから、別名「緑雨」や「若葉雨」とも呼ばれています。
このように日本には雨を表現することばが多数存在しており、オトモニ編集部が確認できただけでも、その数は143個にも上ります。四季があり、雨とともに生きてきた日本だからこそ培われてきた情緒豊かなことばや表現たち。今回はそんな「雨の文化」についてご紹介していきたいと思います。
雨と共に生きてきた日本人
古来、日本人は雨と共に生きてきました。日本は世界的に見ても雨の多い国。年間の平均降水量は地球表面全体平均の2倍にも及び、一年を通じてたくさんの雨が降ります。そんな中、米作りをしてきた日本人にとって雨は恵みであり、そして同時に災害の原因でもありました。
潤沢な水が必要である米作りには大量の雨が必要であり、しかし降りすぎれば土砂崩れや山津波が起こってしまう。そのため日本人は雨のことをよく観察し、深く付き合ってきました。これらのことから日本では雨のことばが多く生まれ、四季折々の雨のうつくしき様子が表現されてきたのです。
情緒豊かな雨のことばたち
それでは実際にどのような雨のことばが存在しているのでしょうか。日本各地の雨のことばや、言い回しなどをいくつかご紹介したいと思います。
季節を感じる雨の言葉
紅の雨(くれないのあめ)
春に咲く、つつじやしゃくばげなどといった紅の色をした花に降り注ぐ雨のこと。
涼雨(りょうう)
夏も終わる頃に、涼しさをもたらす雨のこと。
雨の様子を表したことば
雨の糸(あめのいと)
細い糸のように筋をなして降る雨のこと。「糸雨(いとあめ・いとさめ)」ともいう。
神立(かんだち)
雷を伴った、勢いのある雨のこと(もともとは雷鳴を表すことばだったが、雷には雨が伴うことが多いので、雨を表すことばになった)
比喩的な雨の表現
雨夜の星(あまよのほし)
雨の夜に星が見えないように、めったに見ることができないことのたとえ。
雨垂拍子(あまだれびょうし)
規則正しく軒から落ちる雨垂れのように、拍子を一定感覚で奏でること。
静かに、そして時には激しく降る雨を表現した色鮮やかなことばたち。どうしても陰鬱な気分になりがちな雨天ですが、表情豊かな雨のことばを知り、見方を変えることで、雨に濡れた風景の艶やかさや柔らかさなどを感じ取ることができるような気がします。
雨を詠む、雨を描く、雨で表現する
雨のことばが豊富なように、日本には雨をモチーフにした作品が多く存在します。これは日本人が雨を文化のひとつとして取り込んできたことによるもので、雨の少ない西洋にはあまり見られない傾向です。日本に現存する最古の和歌集である「万葉集」を見てみれば、そこには雨の歌がずらり。その多くは恋の歌であり、雨によって思うように想い人と出会えないやるせなさを歌っています。
江戸時代から大正時代にかけては、雨を表現した浮世絵が多く生まれました。その中でも多くの傑作を残した浮世絵師が歌川広重。広重は雨を線で描くという方法を生み出し、雨という自然現象をわかりやすく魅せた作品を生み出しました。広重が雨を描いた作品の中で特に有名なのが「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」。
じっと見ていると、ざあざあと降り注ぐ雨の音や、その場の匂いや緊張感さえも立ち昇ってくるようなこの作品は、ゴッホやモネにも大きな影響を与えました。そもそも「雨を描く」という発想がなかった西洋絵画。広重の長く、シャープな描く雨や、降りしきる雨の向こう側を描くという感覚はとても新鮮であり、驚愕する表現方法だったのです。雨を表現し、雨を通じて世界を切り取る。そうして生まれた作品の持つ情緒的な美しさは、国境を越えて世界へと広がっていきました。
そして現代、小説や映画、音楽など雨をテーマにした数々の作品がある中で、やはり印象的な雨の作品といえば新海誠監督の「言の葉の庭」。雨が主要キャラクターの一人ともいえるこの作品では、様々な雨が描かれてます。
新緑匂い立つような雨に、激しい夕立。ざあざあと肌寒さを感じる雨に、しっとりと主人公たちを包み込む優しい雨……心の機微を表し、その場の空気や湿度までも感じさせる雨の表現は、息を飲むほどに美しく、雨の持つ表情の豊かさを教えてくれます。
雨を通して世界を見る。雨によって洗い出された世界を味わう。日本人が大切にしてきた雨の感覚が、この作品にはちりばめられているのです。
JBO銘柄第9弾は雨の日にだけ楽しめるクラフトビール「翠雨」
雨に関する豊かな表現は、日本が誇るべき文化のひとつだと思います。そんな「雨の文化」に想いを馳せつつ、雨の日に楽しむビールとして、わたしたちは「翠雨」を醸造しました。
翠雨は雨の日に「だけ」飲めるビールです。陰鬱な気分になってしまう梅雨の雨が少しでも楽しみに、そして雨の日が嬉しくなればと思います。
「翠雨」はしっかりと冷やして飲む、セッションIPA。じめっとした日に飲みたくなる爽快な味わいに仕上げています。雨によく似合うこのビール。「雨が降ったから翠雨を飲もう!」とわくわくしていただけたら嬉しいです。
さあさあと天から降る雨の気配を感じながら。窓にあたる雨音に耳を傾けながら。雨とペアリングしながら、ゆっくりとこの1本を楽しんでください。
文 : ルッぱらかなえ(小林加苗)
雨の言葉 出典 : 雨のことば辞典 (講談社学術文庫)